イントロダクション

少女トヤの目を通して描かれる、自由という砂上の楼閣。
世界遺産の美しき街・ティンブクトゥで何が起こったのか?

西アフリカ、マリ共和国のティンブクトゥ。この世界遺産にも登録された美しい古都からほど近いニジェール川のほとりの砂丘地帯で、少女トヤは、父キダン、母のサティマ、牛飼いの孤児イサンとつつましくも幸せな生活を送っていた。
しかし街はいつしかイスラム過激派のジハーディスト(聖戦戦士)に占拠され様相を変えてしまう。兵士たちが作り上げた法によって、歌や笑い声、そしてサッカーでさえも違法となり、住民たちは恐怖に支配されていく。影のように潜みながら生きていく者がいる一方で、尊厳をもってささやかな抵抗を試みるものもいた。が、悲劇と不条理な懲罰が繰り返されていく中、トヤの家族にも暗い影がすこしずつ忍び寄り、ほんの些細な出来事が悲劇を生もうとしていた…。
世界遺産にも登録されている古都ティンブクトゥの美しい砂の街を舞台に、愛と憎しみを通して、人間の「赦し」とは何かを描いた壮大な叙事詩。少女トヤは何を見たのか?そして何を決意したのか?
2015年、フランスで最高の栄誉とされるセザール賞で最優秀作品賞をはじめ7部門を独占し、アカデミー賞外国映画賞にもノミネートされたモーリタニア映画『禁じられた歌声』がいよいよ公開される。1947年に、オスカーに外国映画賞部門が設立されて以来、アフリカ大陸からノミネートされた映画は8本しかなく、モーリタニアからは初めてという快挙である。

これが世界の現実!
全世界が慟哭したアブデラマン・シサコ監督作、待望の日本初公開

100万人の観客を動員したフランスで、「これこそが我らのパルムドール(カンヌの最高賞)!」と言わしめた本作は、2012年にマリの北部にある町、アゲルホクで実際に起きたイスラム過激派による若い事実婚カップルの投石公開処刑事件に触発された、アブデラマン・シサコ監督により製作が進められた。
シサコ監督は、イデオロギーや宗教的対立によって生じる災厄と過酷な現実を怜悧にみつめながら、人間が抱えている普遍的な宿命の悲劇を、時には詩的に、時には抽象的に、時には荒々しいリアリズムで炙り出した。そして失われた砂漠の歌声を、伝統的なメロディと共に耳にした時、失われたのは音楽だけではないことを知るだろう。自由が少しずつ奪われているのは、イスラム諸国だけではない。世界の変容と人間のエゴを、少女の目を通して壮大な自然のなかで描いた傑作がついに誕生した。同時にアブデラマン・シサコという、未知なるアフリカ大陸からの傑出した才能の出現でもある。