ものがたり

アフリカ、マリ共和国のニジェール川沿いのティンブクトゥからほど近いある街で、少女トヤは、父キダン、母のサティマ、牛飼いの孤児イサンと、ささやかながらも互いに慈しみ合う幸せな生活を送っていた。そこにはいつも父の奏でる音楽があった。

しかし、街はイスラム過激派のジハーディスト(聖戦戦士)に占拠され、様相を変えてしまう。過激派は厳格なシャリア(イスラム)法と恐怖政治により住民たちを支配してゆく。彼らは、音楽、笑い声、たばこ、そしてサッカーや不要な外出など次々に禁止し、毎日のように悲劇と不条理な懲罰を繰り返していく。それでも人々は隠れて音楽を楽しみ、少年たちはボールを使わずにサッカーの試合をし、静かに抵抗するのだった。そして極彩色のドレスを着た気のふれたひとりの女は、身体を張って不条理な暴力に対抗する。自由という、彼女の中で燃え上がる炎でもって。

しかし過激派たちの、住民への圧政はより色濃くなっていく。歌を歌ったという理由だけで女性は鞭打ちの刑に処され、その尊厳は踏みつぶされていく。神を讃える静かな音楽を奏でただけで、それはむしろ神への冒涜となる。そしてまだ愛も知らない少女は、無理やり男の花嫁となっていく。そして事実婚のカップルは公開処刑されるのだった…。

トヤの家族は、そんな混乱を避けて街の外れに避難する。キダンの8頭の牛の群れを遊牧するイサンは、幼いながらもこの仕事に誇りをもっていた。 特にGPSと名づけられた牛には特別の愛情を込めていた。

ある日漁師のアマドゥは、GPSが川に仕掛けた網のエリアに入ってきたという理由だけで、イサンの目の前でGPSを殺してしまう。 動揺した家族を前にキダンは、妻サティマの「話し合うべき。 武器は要らない」という言葉をよそに、アマドゥに対峙するために川に向かうのだった・・・。